デスヴォイス博覧会

プロフェッサー目樽ヘヴィメタ

プロフェッサー目樽

ヘヴィーメタルの持つ特異性のひとつに「デスヴォイス」があります。これはいわゆる汚いダミ声で歌うという歌唱法ですが、死や恐怖、悪魔などをテーマにしているヘヴィーメタルにおいてデスヴォイスは世界観を作るために欠かせないものになっています。

かつてアングラやハードコアと呼ばれていたヘヴィーメタルでは、ひたすら唸り続けたり奇声をあげて叫んだり意味不明な歌詞を念仏のように唱え続けるというボーカルスタイルがありました。やがて絶叫しながら歌うという器用な人たちが出てくるようになり、発声の仕方や喉に負担のかからない歌唱法が確立され、現在のデスヴォイスが出来上がりました。

やってみるとわかりますがダミ声を出すというのは意外に大変で、それで歌うというのは至難の業です。ちゃんとした発声をしないと喉を潰してしまいかねません。

今回は、現在のメタル界の主流ともいえるデスヴォイスが印象的なボーカリストを特集します。

醜くも美しいデスヴォイスの世界

JINJER – Pisces (Live Session)

ウクライナ出身のデスメタルバンドJINJERの歌姫タチアナ嬢は、艶のあるクリーンヴォイスで普通に歌っても十分に聴き応えがありますが、デスヴォイスも一級品でとても女性とは思えないほどのパンチ力があります。美しい歌声からまるで悪魔に憑依されたかのようなデスヴォイスは同一人物が出しているとは思えません。そのギャップが楽曲にドラマチックさを与えています。

by カエレバ

 

CRYPTOPSY – Detritus (the one they kept)

カナダの技巧派デスメタルバンドCRYPTOPSYは、化物と称されるほどものすごいスピードの演奏もさることながら、ヴォーカルもなかなかの曲者です。デスヴォイスでこのテンポスピードに合わせて歌うということ自体が非常に難しいことなので動画サムネのドヤ顔も納得です。

by カエレバ

 

DARK TRANQUILLITY – Misery’s Crown

スウェディッシュメタルの重鎮的存在DARK TRANQUILLITYのヴォーカルミカエルは、若い頃はオーソドックスなダミ声で歌うスタイルでしたが、最近は甘いクリーンヴォイスも絡めるようになってきました。やはりデスヴォイスで歌うのはかなり体力がいることだと思うので歳を重ねるほどに体力低下をテクニックでどう補うのかも大きなテーマなのかもしれません。個人的にはとっても優しい歌声なので、クリーンヴォイスだけの曲も聴いてみたいものです。

by カエレバ

 

THE AGONIST – and Their Eulogies Sang Me to Sleep

美貌と才能を見込まれ現在Arch Enemyのヴォーカルを務めるアリッサ嬢ですが、THE AGONIST時代にはデスヴォイスと共にクリーンヴォイスも併用して歌っていました。Arch Enemyでは鉄の掟でもあるのかクリーンヴォイスを完全封印していますが、個人的にはクリーンヴォイスも使った女性らしさも打ち出してもいいのではと思ったりしています。

by カエレバ

 

Six Feet Under – Doomsday

CANNIBAL CORPSEの初代ヴォーカリストのクリス・バーンズは、まるで穴蔵から響いてくるようなあまりにも非人間的な独特のデスヴォイスで話題になりました。こういうモンスター級のヴォーカリストがいるところがヘヴィーメタルというジャンルの面白いところでもあります。年を取ってちょっとパワーは落ちたものの、Six Feet Underでもその悪魔的な歌声は健在です。

by カエレバ

 

Nocturnal Bloodlust – Sphere

日本でも多くのメタルバンドがデスヴォイスを取り入れていますが、外国バンドがデスヴォイス一辺倒なのに対して日本はデスとクリーンを細かく切り替えるというか、ワンポイント的にデスヴォイスを使うという傾向が強いようです。クリーンヴォイスとデスヴォイスは発声の仕方が違うので喉への負担も大きいとは思いますが、外国ではあまり見ませんが日本人は器用なのか多くのヴォーカリストが簡単にこなしていますね。

by カエレバ

 

DEVILOOF – ESCAPE

若手のヴィジュアル系メタルバンドで私が現在注目しているのがこのDEVILOOFです。以前はフルデスヴォイスでしたが、クリーンヴォイスも織り交ぜるようになりました。これはこれでいい感じですが、ヴォーカルKEISUKEの繰り出すエッジの利いた多彩なデスヴォイスを活かしたサウンドで世界に打って出るほどになって欲しいですね。

by カエレバ

 

SUICIDE SILENCE – Disengage

どんなジャンルにも天賦の才能を持った人間はいるもので、Suicide Silenceのミッチ・ルッカーは多彩なデスヴォイスを変幻自在に操る天才的なボーカリストでした。狂気を孕んだシャウトや不穏なグロウル、暴力的なガテラルで紡ぎ出された曲の数々は聴く者に強烈なインパクトを与えてきました。その才能ゆえにメタルの神様に愛された彼は28歳の若さでバイク事故により亡くなってしまいました。

by カエレバ

 

まとめ

歌は、本来であれば如何に美しく耳障りのいいものにするかがテーマにしますが、デスメタルはその逆のテーマで作られます。不安や恐怖を煽るような歌詞や楽曲を耳障りの悪い声で歌うという最悪な音楽ジャンルです。

しかし美しいもの耳障りのいいものだけが人間の全てではありません。醜く耳障りの悪いものの中にある不安や恐怖も感情の一つであり人間のエッセンスでもあります。

美しさだけでなく醜さも内包する懐の深さこそヘヴィーメタルという音楽ジャンルの奥深さであり、私の大好きな部分でもあります。

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